夏の夜の・・・あぜ道

夏の夜の・・・あぜ道

むかーし、むかしのお話です。

今ではもう舗装されて広くなっているのですが、以前我が家は、舗装された道路のカーブから伸びるあぜ道を行った数十メートル先にありました。このあぜ道の入り口辺りは、我が家の隣の家と、二階建てのアパートと、畑が接する場所で、どんなに無風なときでもなぜかいつも突風や強風が吹いていて、道沿いにある竹はこの入り口の1、2本だけが揺れているような場所でした。

あるとき、誰もいないはずの畑の方から、じっと見られているような気がして畑を見ると、猫がじっとこちらを見ていました。よく見ると、猫の集会所となっているらしく、10匹以上の猫がソーシャルディスタンス?をとって、休耕地となっている畑にじっと身をひそめていました。

そんなこともあり、私があぜ道の入り口を魔界の入り口だと信じていた頃のお話です。

夏のある夜、新月で薄暗い日の帰り道、あぜ道の少し手前にさしかかったのですが、街灯の明かりを見ながら歩いていたので、暗がりに目がなれず、あぜ道の入り口付近は何も見えませんでした。

隣の家とはいっても隣の庭が長くあるため、我が家は見えないのです。しかも、隣の家の主は、明るいと眠れないからと、夜は雨戸を締め、街灯も点けることを反対したため無かったのです。アパートからも、魔界の入り口を照らすような光は漏れてきません。月明かりと懐中電灯がないと手探りというより足探りで歩くしかない場所なのです。今のように携帯がない時代、月明かりの弱い日は前がほとんど見えず、このときは懐中電灯も持っていませんでした。だから、携帯で照らすことも、家族に迎えを呼ぶことも出来なかったのです。

しかたなく、なんとなくの感であぜ道方向へとゆっくり進んでいきました。すると、魔界の入り口付近を白い小さく丸いものが横にスーっと動くのが一瞬見えました。いやまさか・・・と、気のせい気のせいと念じながら一歩進みました。

今度は、目の高さほどの所に人の形をした白いものが・・・。しかも、上半身だけ。怖くて声も出ず。一歩も動けず。逃げられない、もうだめだと思ったとき、

「どうぞ・・・」

と消え入りそうな弱々しい女性の声が聞こえてきました。声が出ないから、

(ギャー!!!出たー!!!憑りつかれるー!!!魔界に吸い込まれるー!!!しゃべったー!!!)

と、私の頭の中は大声でパニック状態。

(え?)

・・・。

(どうぞって何が?)

急に冷静になった私、暗がりにも少し目が慣れてきました。必死に目を凝らしました。いや正確には、見たくないけど、なぜか体がこわばり目をそらすことができませんでした。

そこには白いタオルを頭にかぶった女性が、あぜ道を開けるように横に立っていました。女性が頭のタオルを取ると、白いものがスーっと消えました。

「あ、どうも・・・」

と言って、私はその女性の前を通り過ぎました。

紛らわしい。でも、普通の人でよかった。怖い人じゃなくてよかった。夜、こんな所で頭から白いタオルを被っている女性が普通の人かどうかは分からないけど、とにかくよかった。

めでたしめでたし。

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